【第1回】はじめての通訳~通訳と訓練方法に対する誤解「通訳ってハリウッドスター来日会見の通訳をするあの人のことですか?」

はじめに

私は5年近く通訳学校や大学で主に初心者向けの通訳演習授業を行ってきました。私か訓練を始めたころより通訳という職業が身近なものになり、かつインターネットで容易に情報が取得できるようになったにもかかわらず、依然として通訳に対する理解が不十分なまま授業に参加される方がいらっしゃいます。その結果、授業を十分に消化できないまま夕-ムが終わってしますケースが見られました。通訳という職業、その訓練方法について十分に理解して授業に臨んでもらいたく今回の企画を作成しました。

なぜこのような質問が?

一般の方から聞かれるのであればまだしも、なぜ通訳志望者、通訳の勉強を希望される方からこのような質問が出てくるのでしょうか?タイトルの質問、読者のみなさんが想像される人と私が考えている人はおそらく同じだと思います。私も通訳になる前に何度かテレビで拝見したことがありますが、颯爽としてかっこよかったと今でも鮮明に覚えています。どれだけインターネットで情報の取得が容易になっても映像の影響力に勝るものはないのかもしれません。

加えて、大学生からも同じようなことを聞かれたことはあります。ニュースを見ていると会議の場面、レセプションの場面、映画以外の記者会見、著名人のスピーチの場面に頻繁に通訳が登場するので疑問に思ってこちらから質問の意図や背景を尋ねたことがあります。すると、英語が好き⇒洋画や洋楽、ドラマをよく観る⇒スターの来日は必ず確認する⇒記者会見⇒通訳へのあこがれ、という答えが返ってきました。

通訳の実態を知るためには?

分析はこの辺にして、通訳演習を受講する前、通訳者のイメージが湧かない場合は何を参考にすればいいのでしょうか。通訳の授業を受けるといっても、(1)本当に通訳になるつもりはないが、通訳に興味があるので受講する、もしくはおもしろそうであれば通訳になってみたい(2)本気で通訳になりたい、という方に分かれると思います。

そこで、それぞれのタイプに合わせてお薦めのコンテンツを紹介します。

1)本当に通訳になるつもりはないが、通訳に興味があるので受講する、もしくはおもしろそうであれば通訳になってみたい

『通訳になりたい!-ゼロからめざせる10の道』
(岩波ジュニア新書)新書 松下佳世(著)
通訳ガイド、医療、司法など様々な通訳分野の第一線で活躍されている方の話が載っています。通訳という仕事のイメージが湧くことと思います。

また、2017/1/10付の日本経済新聞ではこのような記事が掲載されていました。
叱責まで忠実に ラグビー日本代表通訳・佐藤秀典

昨年話題となったスポーツの通訳をされていた方へのインタビュー記事です。日々の通訳業務、通訳関連業務が詳細に記載されています。

(2)本気で通訳になりたい
プロフェッショナル 仕事の流儀「言葉を超えて、人をつなぐ~会議通訳者・長井鞠子」
※NHKオンデマンドで視聴可能

この番組を見ると通訳者がどんな想いで準備をし、話者のメッセージを伝えようとしているのか、通訳の真の姿がわかります。私の場合はこの番組を見るたびに身が引き締まる思いがするのですが、中にはショックを受けて次の回から授業に来なくなった方がいらっしゃいました。初めての方にとっては衝撃が強いのかも知れません。

そのような方はYouTubeで「外国特派員協会会見 通訳」と入力してみてください。話題の人の記者会見が見ることができます。

近頃話題のエンターテイナーから学術的な内容まで様々な話題をカバーしています。難しい日本語をどう訳そうかと苦労している通訳の姿が見られることもありますので、通訳がより身近に感じられることでしょう。

終わりに

通訳は人前に出る機会が多いにもかかわらず、最も理解されていない業務のひとつかもしれません。通訳を主役にしたドラマもないですし、ドキュメンタリーも上記に挙げたくらいしか記憶にないくらいですから。
ただ、ひとつ言える事はいろんな形態の通訳があり、様々なテーマを扱うのが通訳であるということです。

第2回もよく聞かれる質問について取り上げます。


菊池葉子(きくち ようこ)

英語通訳者、英語講師、京都女子大学非常勤講師。2008年通訳デビュー。主な通訳分野は技術、IT, 建築、IR。2011年に通訳学校卒業後、同年通訳学校の講師として稼働開始。主に通訳初心者向けの授業を担当。また、2015年より大学講師として会議通訳演習を担当。受講生からは、最初から順を追って丁寧に指導してもらえる、飽きさせない授業をしてくれる、との評価を受けている。