【第1回】通訳なんでも質問箱「逐次通訳を勉強する本」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の千葉絵里と関根マイク(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。忘れた頃にサプライズが生まれるかもしれません(!)。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

では、今回の質問です。

 

Q.通訳経験のあるものですが、逐次通訳練習をするお薦めの教科書を探しています。学校に行きたいけれど予算がないので教科書を購入して勉強したいのですが、なかなかこれといったものが見つかりません。もし出来ましたら2~3お薦めの教科書を教えて頂けませんでしょうか。

 


千葉絵里の回答

どんな学びでも、現状・目的・到達目標・趣味や関心・個性や性格特徴・何が得意か不得意かなどによって学びのありようはかなり異なると思います。なので、情報が非常に限定されているのでお答えするのが難しいな、と思いつつ書いています。何かひとつでもお役に立つものがあるといいのですが。

通訳技能に関する教科書的存在といったら、小松達也先生の著書『通訳の技術』(研究社、2005年)でしょうか。もしかしたらご質問の趣旨とはずれた回答になるのかもしれませんが、「通訳する」とはどういうことなのか、またその時に気をつけるべきことは何なのか、全体像を頭に入れる上で有益です。実践面は他のもので補う必要があると思いますが、特に講師から個別アドバイスを受けにくい環境の方には一読をお勧めしたいと思います。

具体的に実践を重ねるための素材について。他にも色々いいものはあるのですが、今回お勧めしたいのはTEDの動画です。長さ、難易度、分野などバリエーションがあり、楽しく学べるのではないかと思います。英語字幕はもちろん、日本語字幕がある動画も多いので、字幕をつけたり消したりしつつ、通訳演習のほかリスニングやシャドウイングの練習にも使えます。TEDを用いた学習方法を解説したサイトは沢山ありますので、ご参考になさってみてください。

もう少し基礎的なところから、あるいは身近なところから勉強してみたいという場合は、妻鳥千鶴子/マーク・スタッフォード著『CD BOOK ビジネス場面の英語スピーチ実例集』(ベレ出版、2009年)なども役に立つと思います。

その他、自分の場合、仕事が忙しくて通訳学校に行けなかった時に役に立ったのは、NHKラジオの「実践ビジネス英語」シリーズ。日英のスクリプトがありますので、日本語から英語、英語から日本語へすらすら訳せるようになるまで音読し暗記するようにしました。その時々のビジネス現場最先端のトピックや、よく遭遇しそうな表現を学べます。サイト・トランスレーションの練習には、企業のプレス・リリースやIRライブラリの資料なども活用しました。

紙数がそろそろ尽きてきました。私は自分に最もあった勉強方法は自分で工夫して見つけ出すしかないと思っているので、先人の勉強法を参照するのも一考の価値ありと思います。最近の本では、小熊弥生さんの本などが興味深かったです。実用的な情報の紹介も豊富です。

少しでもご参考になれば幸いです。

*書籍については、手元にあるものを中心に紹介させていただきました。


関根マイクの回答

千葉さんのことだから『通訳の技術』『よくわかる逐次通訳』あたりを推してくるのではないかなと予想した上で、私はあえて英語の本を中心に紹介しようかなと(英語の通訳者なので)。

まず読んでほしいのはロデリック・ジョーンズのConference Interpreting Explainedですね。欧州連合の公式通訳者として20年以上の経験があり、通訳教育にも積極的な方です。現場をあまり知らない学者が書くものと異なり、やはり実務を知っている人の文章は心に響きます。邦訳の『会議通訳』も出ていますが、ぜひ本書は英語で読んでもらいたい。言葉の切れ味が全然違います。たとえばノートテイキングは起点言語と目標言語のどちらで取ったらよいのか?という質問に対しては、「それって本質的な問題じゃない。別にどちらでもいいよ([that question]…is really pretty irrelevant)」と、バッサリ(笑)。逐次通訳に限定された内容ではありませんが、これから通訳者を目指す人はまず本書を読むべきです。

同じTranslation Practices Explainedシリーズから、Note-taking for Consecutive Interpreting: A Short Courseもお薦めです。正確かつ安定した逐次通訳をするためにはノートテイキングの技術を磨くことが求められますが、私が知る限り、日本語ではこのトピックについて具体的かつ体系的に書かれた本がまだありません。私のように基本的に全部英語で取る人であれば必読です。「何を書くか」はとても大事ですが、「何を省くか」も同じくらい大事だということが学べるはずです。

最近ではConsecutive Notetaking and Interpreter Trainingという本もあるようですが、私はまだ読んでいません。ただ、価格から判断するに、マス向けの実用的な内容ではないかも……

ちなみに検索すればこちらのようなノートテイキングに関する動画もありますよ。

独学にこだわるのであれば、Andrew GilliesのConference Interpreting: A Student’s Practice Bookを参考にしながら勉強するのも一つの方法です。逐次通訳(と同時通訳)に必要な複数のスキルを磨くために有効なエクセサイズやヒントを具体的に紹介しています。その数はおよそ300。実際に欧州の通訳者養成機関で活用されているものも少なくありません。自分に合った練習法を試してみてはいかがでしょうか。


千葉絵里

日本会議通訳者協会理事。特許事務所、自動車会社勤務等を経てフリーランス会議通訳者。得意分野は自動車、機械、経営、IR、人材&組織開発。力試しに受験した通訳学校のプレースメントテストをきっかけに通訳訓練を開始、二つの言語世界を行き来する面白さに魅了され現在に至る。海外留学経験はなく、通訳学校育ち。効果的な学習方法や仕事の準備の仕方を工夫することが好きで、勉強法・学習理論・心理学・コーチングなどの本を読むのが趣味。最近読んでよかった本は『GRIT やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース著)『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』(加藤洋平著)。

関根マイク

会議通訳者、名古屋外国語大学大学院兼任講師、日本会議通訳者協会理事。得意分野は政治経済、法律、ビジネスとスポーツ全般。午後2時頃からエンジンがかかってくる遅咲きタイプの通訳者。現在は主に会議通訳者として活動しているが、YouTubeを観てサボりながらのんびり翻訳をするのも結構好き。イングリッシュ・ジャーナルに『ブースの中の懲りない面々~通訳の現場から』、通訳翻訳WEBに『通訳者のメンタルトレーニング』、通訳翻訳ジャーナルに『通訳の危機管理対策ドリル』を連載。