【第2回】建築現場は今日も晴れ!「M6 or M8?金物は千差万別」

建築現場での通訳は、やはりガテン系(blue-collar-worker)と言えるのではないでしょうか?もちろん現場にもよりますが、現在私が働いているところでは、毎日オフィスと現場を何回も往復し、歩数が2万歩を超える日も少なくありません。建物の外では、足場(scaffolding)を何度も上り下りしますし、建物内もエレベーターが付くまでは、階段を使うしかありません。一方職人さんたちは、重い腰道具をつけながらも、私よりも明らかに年上の方でもフットワークは恐ろしく軽いので、工事が始まったばかりの頃は、後をついていくだけでも息が切れ、「ここ配管取り付けてみたんですが…」なんてすぐ通訳が始まってしまうと、まずは息を整えてからじゃないとしゃべれない、という情けない状態に陥っていました。それが、一か月もたつと筋肉がついてくるのか、全く平気になっているから不思議です。同時に、食べる量も正比例して増えていくので、体重は全く減ってくれないのですが。

1.現場で頻出する単語(英語編)

さて、今回は現場で頻出する単語の英語編です。


A. Install

Installは「据え付ける、取り付ける」という意味で使われることが多いのですが、現場では、「施工」と訳すと便利です。つまり、何か問題があった時に、「誰だ、これをやったのは!?」となるのは、基本的にすべて「施工」です。照明器具の取り付け位置が間違っている、壁紙と壁の間に気泡が入っている、などはすべて “wrong/poor installation”であると言えます。


B. Apply

Apply も大変便利な単語です。Installが形あるものの施工だとすると、Applyは、ペイント、接着剤、パテなど液体状で塗布するものに使うことができます。

Supervisor:  “How do you prepare the wall surface before it gets painted?”

スーパーバイザー:「塗装前の下地処理はどうしますか?」

職人:「ビス穴やボードの目地はパテで埋めてから塗装しますよ。」

Worker: “We’ll fill those screw holes and joints of boards with putty before applying the paint on the walls.”


C. Substrate, backer, backing board…

これらはすべて「下地(材)」と訳せます。例えば壁の下地が石膏ボードの場合、その上に塗装(paint)や壁紙(wallpaper)などの仕上げ材(finishing materials)が来るわけです。

Supervisor: “What material is used for the substrate for the walls in that room?”

スーパーバイザー:「この部屋の壁の下地材は何ですか?」

職人:「12.5mmの石膏ボードなんで不燃認定は大丈夫ですよ。」

Worker: “They are 12.5mm of gypsum boards, and they are certified as Noncombustible.”

ちなみに「石膏ボード」も、Gypsum board, drywall, plaster board, sheetrockなど様々な呼び方がありますが、すべて「石膏ボード」と訳すことができます。もちろん、石膏ボード以外にも、コンクリートの壁や壁の中の鉄骨が下地(材)となる場合もあります。


D. Provide

Provideは一言でいえば、「設ける」にあたる単語です。これは例えば、点検口を作っておかなければならない場合など、“we should provide an access opening here(点検口をこの辺りに設けておかないといけないですね).”という感じに使います。


E. Hardware

さて、金物と言っても様々な用途の金物がありますが、ここでいうhardwareとは、ボルトやナット、ビスのことを指します。このボルトの発注を外国人スーパーバイザーから頼まれたのですが、頭の形も六角(Hex)、皿(countersink)、星形にくりぬいてあるもの(star)など非常に数が多い上に、メートル法(metric system)と帝国単位(Imperial system)が違うので、例えば米国で制作したものを日本で取り付けたいとき、元々インチで考えて設計しているので、どうしてもぴったりのサイズのボルトが見つからない場合もあります。また、頭のサイズ、ビスの長さ、ユニファイかウィットか、ピッチ(thread)が並目(coarse)か細目(fine)か、等、本当に千差万別なので、事前の確認が欠かせません。ところがある日、

“Noriko, wrong hardware was delivered.”

と外国人スーパーバイザーが困った顔でやってきました。なんと、直径がM8のものを注文しないといけなかったところを、誤っM6のものを注文してしまっていたのでした。

使えないM6のビスが600個も納品されてしまうという痛恨のミスをおかしてしまった上に、職人さんが手待ちになる(the work is being held up)という事態まで招いてしまいました。通訳でも正確性は一番大事なのに、と、改めて確認することの重要性を痛感した経験でした。

このように苦い経験も味わいながら、毎日現場の職人さんたちには色々なことを教わっています。先日は、現場の所長さんに、「建築現場にはよく動物が出るんですよ。」と教えてもらいました。「動物ですか??」とお聞きすると、「そう、犬走(scarcement)、ねこ(手押し式の運搬台車のこと―wheel barrow)、鳶(職)、トラ(トランシット)…」

そうか、なるほど。私はてっきり、ゴジラのようにいかつい現場監督さんたちのことかと思いました!


仲田紀子(なかた のりこ)

会議通訳者。長野冬季オリンピックで審判付き競技通訳でデビュー。製造業、小売業、大学、地方自治体、IR、マスコミなど.幅広く活躍。得意分野は、建築、司法、アート。とりわけ建築業界では、好きが高じて最近は現場のコーディネーターまで経験し、現場監督さんの偉大さを痛感中。