【第5回】つながっていたんだ!~通信・ネットワーク系の通訳で学んだこと「白ソックス必携」

今回は、通信・ネットワーク系の通訳の仕事の、前回までとは全く違う側面をご紹介します。いきなり「白ソックス必携」と書きましたが、通信・ネットワーク系の仕事で茶室に入るわけはありません。これは、「今日はネットワークセンターに行きそうだな」と察した時にアタマに浮かぶことなのです。ネットワークセンター(データセンターもそうかもしれません)では、ハードウェアがずらりと並ぶマシーンルームに入る時に、必ず「静電靴」というものを履きます(参考写真)。会社やセンターによっては、建物に入る時に静電靴に履き替えることを求めるところもあります。ただ、心配は無用です。静電靴は自分で用意する必要はありません。来客用の静電靴が使えます。(または、各ベンダーの「置き静電靴」があります。)

ということは、そうです。他の方がはいた静電靴を履くことになります(!!)。私、あまり潔癖症ではないのですが、やはりここは「靴下持参でしょ」という結論に達します。また、マシーンルームは機械に熱がこもらないように空調がきいているので寒いことがよくあります。軽―く風が吹いていることもしばしば。ただでさえ冷えやすい女子でも、靴下があると体感気温が違ってきます。マシーンルームへの出入りは厳しく管理されていて、トイレに行くのに社員さんのセキュリティカードが必要だったりすることもあります。冷えてトイレが近くなると、仕事の能率も下がりますし、寒くて集中できない、という事態も防ぎたいものです。(頻繁にトイレに同行してもらうのも面倒くさい。(笑))また、マシーンルームに入らない、センター内の会議室でミーティングという時も静電靴着用必須なことがあります。というわけで、たとえ会議で訪れることが100パーセント確実でも、私はソックスを持参します。さらに、男性が多いこの業界、女子用サイズの静電靴がないことも。ここでもソックスが頼りになります。一枚ソックスを履いておくと、大き目の靴もストッキングだけの時より断然歩きやすくなるからです。

では、なぜ「白ソックス」なのか?しつこいようですが、茶室があるわけではありません(笑)。答えは単純で、静電靴は白が圧倒的に多いからです。白の次には薄いグレーも多いので、白にしておくと悪目立ちしません。例えばパンダ柄のソックスだったら、場が和んだりするかもしれませんが、お客さまとの間で今どんな事態になっているかは外部者である通訳にはわかりません。もしかしたら、プロジェクトの進捗が悪くて、お客さまは怒り心頭に達しているかもしれませんし、連日のトラブルでプロジェクトマネージャーがお疲れモードかもしれません。フリーランスとしてはリスクヘッジとして、できるだけクレームにつながりそうなことは避けておきたい。というわけで、業務に直接関係ないところですが、ここは無難に目立たない白ソックスにしています。

侮るなかれ仕事服!

ソックスの話をしたついでに、通信・ネットワーク系の仕事とは直接関係ないのですが、仕事での服装の話を少し。これは社内通訳者の選考での話で、フリーランスにはあてはまらないかもしれませんが、スカートが短かすぎたのでクレームがついた通訳者の話を聞いたことがあります。役員レベルの出席する会議で通訳してもらおうと思っていたのだが、スカートが短かすぎて下品だと判断した、とのことでした。通訳パフォーマンスは全く問題なかったそうです。服装で損をしてしまった残念な例だと思います。

現場でも、あまりにカジュアルな服装で来られる通訳さんをお見かけすることがあります。エージェントさんからのお知らせに、「カジュアルすぎない服装でお願いします」という一文を見たこともありますので、他にも服装でクレームになっている方がいるのかな、と改めて自分の服装にも注意するようにしています。もちろん業界にもよりますし、何度もリピートしていてお客さまの事情をよく知っている場合は別ですが、服装にうるさそうでない場合も最低限ジャケットは着るようにしています。また、ジャケットを着なくてよい場合も、襟のついたトップスを選んで、「きちんと感」を出すように心がけています。

ちなみに、ファッション関係の仕事をするときは、ブランド指定の色がある時もありますが、何もない時はブランドや商品の雰囲気を壊さないように、色ものは選ばずにモノトーンの服を着ることにしています。

あと、意外と盲点なのは靴です。オープントゥやウェッジヒールはカジュアルに分類されます。中途採用者の面接で(新卒じゃないですよ)オープントゥの靴を履いてきた候補者にマイナス評価をした、という話がありました。通信・ネットワーク系の仕事では、ベンダーであるクライアント側の通訳者となることが私は多いので、クライアントのお客さまからの評価を落とさないように服装を考えます。その時に役に立つのが黒の靴。黒い靴を履いていると全体の印象がフォーマルに傾きます。それに合わせて全体のコーディネートをしていくと、くだけすぎた雰囲気にならずに重宝しています。そんなに数も持てないこともあって、仕事靴はほぼ黒です。

通訳ブースで業務する同時通訳の場合は少し違ってくるかもしれませんが、昨今のオフィスカジュアルの流れの中、「適切な」服装をすることは以前より難しくなってきているように感じます。もちろん、パフォーマンスがあってこその通訳ですが、服装でマイナス評価されてしまうこともあります。侮るなかれ、仕事服!と肝に銘じています。

屋上の「ほうき」

ネットワークセンターの話から発展して少し脱線してしまいましたが、最後に通信・ネットワーク系のネタに戻って今回の話を終えたいと思います。ビルやマンションの屋上に、「ほうき」を逆さまに立てたような形の棒状のものを見たことはないでしょうか?例えば、こんなのです。携帯電話の「基地局」(base station)のアンテナです。(ちょうど今、これを書いている部屋の窓の向こうにある病院の屋上にも、このようなアンテナが見えます。たくさん立っているので三つのキャリアさんがそれぞれ立てているのかな、と勝手に想像しています。)

屋上に基地局、アンテナがあるビルが、例えば火事になったりしたら大変です。そのアンテナが使えなくなるので、その近辺の携帯電話がつながりにくくなるからです。そしてこの基地局、機械ものですのでハードウェアの入れ替えがあります。で、その時に他人さまのビルに置いてもらっているのがほとんどですので、そこに物理的に立ち入るためにビルのオーナーさんに許可をいただくことになります。これを「オーナー許可」(owner permission)というのですが、作業関係の会議で何の前触れもなく「オーナー許可が取れなくて」と出てきた時に、最初は何のことかわからずに訳しながら「何の持ち主なんだろう?」と軽く混乱した記憶があります。会議が進むにつれて、作業の流れがわかってくるとほどなく謎は解けたのですが。

街角でふとビルの屋上にアンテナを見つけると、すぐに初めてこのフレーズを聞いた時のことを思い出します。また、アンテナもいろんな形があり、鉄塔型のものもあったりして、旅先でいつもは目にしないようなアンテナを見つけると、傍までいってしげしげと見つめたりします。昨年は沖縄の離島で、とても立派な鉄塔型(台風が多いからでしょう)に出会った時には、サイクリング中だったのにもかかわらず、「こんなところにも、つながっていたんだ」と、自転車から降りて近くまで見に行ってしまいました。

今回は、ネットワークセンターに行く際に持っていくべきアイテム「白ソックス」の話から仕事服を選ぶ時に気を付けるべき点について、最後に、基地局とアンテナの話に少し触れました。次回はその基地局やアンテナをもう少し説明して、そこを経由して携帯電話がどうやってつながっているのかを説明します。


神山真紀子(かみやま まきこ)

会議通訳者。得意分野は通信、ネットワーク系。最近増えてきたのがIR。他に製薬、生保、金融、IT、ファッション関係も多数。通訳業の前は、百貨店正社員として販売や売場ディスプレイ、特許事務所に転職し特許事務の後に特許翻訳へ。高校時代は英文科に進学希望するクラスメイトが異星人に見えるほど英語に興味がなかったが、大学の教養科目の英語で面白さを知り、専攻を西洋史から英米文学に変更。趣味はメジャーリーグと女子フィギュア観戦。