【第4回】つながっていたんだ!~通信・ネットワーク系の通訳で学んだこと「異色の住人たち」

前回は、通訳をする際にアタマの中の通訳の「お部屋の住人」と仲良くなる工程の説明でした。今回は、その住人たちの異色メンバーについてです。ネットワーク用語で慣れないうちにお会いすると戸惑ってしまう最たる住人、略語さんたちを各グループの個室に「仕分け」して、知らない人たちはずいぶん減りました。しかし、その個室に入っていただくことができない略語、けれども「この人たちって誰なんだろう?」という言葉がまだ資料に残っている状況もあります。ネット検索してもヒットしない、ようやく同じ略語を見つけても、文脈に照らしてみると違う。あまりに手がかりがないと、暗ーい気持ちにもなります。運悪く、どうしても正体のつかめない略語くんたちが1枚のスライドに複数名うようよいる場合など、ゾンビのいる部屋に放り出されたような気分(大げさ?)になります。社内通訳をしていた頃、まさにそのような経験をしました。予定より大幅に押してしまった会議を終え、疲れた身体に鞭打ちながら翌日の資料を読み進めていくと、とあるスライドに、「何じゃこりゃ?」な数字の組み合わせがありました。ほとんど誰もいないオフィスで残業しながら、ナゾの数字をじっと見つめる私。そこには「7/13」と書かれていました。

思いもよらない面々

何かのタイミングを示していることはわかったのですが、時は冬。7月13日のはずはありません。いえ、どう考えても7月13日ではありえないタイミングをさしていました。新米社内通訳、かなり焦ります。未知の大海原に手漕ぎボートで航海に出ている気分です。運よくその時、先輩がまだ残っていらしたので助けを求めたところ、「2013年の7月」であることがわかりました。かなりあっけない結末(笑)。「そんなもん、ビジネスの常識。通訳以前の問題」とご指摘されると返す言葉もないのですが、知らないものはどうしようもないですし、「技術的な略語」とばかり思って悩んでいると、まわりが見えない袋小路にはまってしまうことも、ままあります。

他にも、「思いもよらない」方々(略語)にお会いすることはあります。会社の部署の略語だったり、グローバルな会社だと、他のリージョン支社の略語だったりする場合もあります。プロジェクト名や他社の名前、ソフトウェアのバージョン名の時もありました。中でも自社のグローバルをまたいだ部署名が略語で出てきた時と、お客さまの拠点名が略語で出てきた時のことは忘れられません。前者は、社内の雑談で何度か聞いていたので「ああ、あれか」とすぐ思い当ったのですが、その会社では外部通訳の人にもお願いしていたので、「これ知らなかったら、厳しいよなー」と、フリーランス通訳の人に尊敬の念を新たにしました。後者は、「何これ?」と思いつつ、じーっと眺めていると、略されている単語がわかってきた記憶があります。(ここに具体的な名前を書けないのがとってももどかしく残念なのですが、わからないと謎いっぱいのところが、わかると笑ってしまうほど明確な略語でした。)この場合は、初めてお目にかかったけれど、「お噂はかねがね!」というパターンでしょうか。初めてお会いするのに、旧知の友人に会ったような親しみを感じました。(向こうの気持ちは知りませんが(笑))

助けてもらう「勇気」

おおげさに「勇気」と書きましたが、わからないことは思い切って聞いてみることが早道だったりします。ただ、闇雲に「教えてください」では、他人の貴重な時間を奪ってしまうことになるので注意。また、私は知らない技術用語に遭遇しまくったのが社内通訳時代だったので、フリーランスだとやや様子が違ってくるかもしれません。

まず大前提として、自分でできる限り調べておきます。「いろいろ調べたんですが、どうしても見つけ出せずに」と切り出すと、好意的になって下さる方も多いものです。また、質問を投げようとする方の状況をよく見極めることも大切。社内通訳時代は、できるだけ会議の前にプロジェクトマネージャーさんにお声がけすることは避けていました。もう会議のことでアタマいっぱいですし、とんでもないトラブルの渦中にいる可能性もなきにしもあらず。その点、エンジニアの方は、会議の前でも話しかけても大丈夫そうな方が多かったので、(あくまでも「様子」を見ながらですが)、「今、大変、話しかけないでほしい」オーラが出ていない方にお声がけしていました。一方、会議が終わったときには割合どの方にもお聞きしやすかったです。ただ、みなさんやはりご多用なので、社内メールで後から聞いたりしました。ここでも、あまりお時間をとってはいけないので、質問は3つまでにしました。(「3」に深い意味はないのですが。)ありがたいことに、どの方にも質問をスルーされることはなく、その意味では、私はとても恵まれた環境にいたのかもしれません。

技術に明るくない立場からの質問の投げ方

何をかくそう、私は高校生の頃に物理の授業がさっぱりわからず、わからなさすぎて睡魔に襲われていたクチでした。その自分がいくら通訳とはいえ、通信やネットワーク系の仕事にかかわるなど、全くもってありえない展開なのですが、ここには訳があります。通訳の仕事をする前は、特許事務所で長らく仕事をしていました。出願手続きの事務を経験した後に外国へ出願する技術文書の翻訳をしていたのです。わからないながらも、技術内容の翻訳を次から次へと、時間の制約がある中で(特許は早く出願した人が権利取得に有利ですし、「優先権」制度のため、2つ目の国/地域に出願する場合には提出期限があります)経験するうちに、技術的な内容や言葉に抵抗をあまり感じなくなっていました。

その当時も、もちろんわからない概念や言葉が出てくると、私が英訳するもととなる日本語を書いた技術系の人たちに教えていただきながら仕事を進めていました。で、その頃に技術系チームのリーダーたる人にあらかじめ、「質問するときの心得」みたいなものを言い渡されていました。翻訳チームと同じく、技術チームも時間の制約の中、日本語文章を作るのに忙しい日々を過ごしています。技術に明るくない翻訳者からの質問に、効率よく、しかも翻訳者が翻訳作業を進められるような形で答えなければなりません。

その「心得」は、ざっくりいうと3つでした。一つ目は、「わからんことは勝手に想像して訳さずに、聞いてほしい」(すみません、原語に忠実に大阪弁バージョンです(笑))。二つ目は、「調べてすぐわかることは聞きにくんな」。三つ目は、「『○○って何のことですか?』な聞き方ではなくて、『○○ってAAですか?BBですか?』という聞き方をしてほしい(オープンクエスチョンでなく、二者択一にせよ)」。

一つ目、そうです。わからないことを聞きに行く「勇気」を持たねばなりません。自分は技術のバックグラウンドを持っているわけではないので、すべてを知っているわけがありません。二つ目、もっともです。先ほど書いたように、「調べきれなかったときに、初めて質問する」。自分で調べてみるのが大前提。三つ目、ここがポイントです。技術に明るくない人がつまずいているところは、専門家にはわかりにくい。どこでつまずいているのか、誤解しているのかを質問者が明確にしないと、「どこから説明したらいいのか」質問を受ける側にはわからない、ということでした。質問は、「具体的に」「相手にわかりやすく」。当時は、将来通訳として技術的内容にかかわるなどとは夢にも思っていなかったのですが、後になって役立つ、有用なアドバイスをいただいていました。

さて今回まで、未知の略語などとの私なりのお付き合い方法を説明してきました。次回はまた違った角度から通信・ネットワーク系の通訳で学んだことをご紹介していきます。


神山真紀子(かみやま まきこ)

会議通訳者。得意分野は通信、ネットワーク系。最近増えてきたのがIR。他に製薬、生保、金融、IT、ファッション関係も多数。通訳業の前は、百貨店正社員として販売や売場ディスプレイ、特許事務所に転職し特許事務の後に特許翻訳へ。高校時代は英文科に進学希望するクラスメイトが異星人に見えるほど英語に興味がなかったが、大学の教養科目の英語で面白さを知り、専攻を西洋史から英米文学に変更。趣味はメジャーリーグと女子フィギュア観戦。