【第2回】つながっていたんだ!~通信・ネットワーク系の通訳で学んだこと「さあ『お部屋づくり』を始めよう」

前回、通訳をする際には「アタマの中に『お部屋づくり』をする」作業が必要、と書きました。では、どうすればいいでしょうか?いろんなやり方があるとは思いますが、オススメは書店に行くことです。「インターネットが普及した時代に、何を言ってるんだ?」「通信が得意な通訳がこんなこと書いていいのか?」と、早速ツッコミが来そうですが、いえいえ落ち着いて下さい(笑)。決して、インターネットで調べものをすることを否定しているわけではありません。実際、仕事の調べものにはじまり、公私ともどもインターネットには毎日お世話になりっぱなしです。しかし、何にも知らない分野のことを体系立てて学ぶ場合、いきなりインターネットだけを使うのはどうなのかな、と思います。それはまるで、大海原に海図や羅針盤なしに漕ぎ出すようなものなのです。

新たな分野の仕事をすると、日本語でも知らない言葉がたくさん出てきます。前回出てきた「ノード」という言葉もそうですし、携帯電話の通信分野であれば、「セル」や「帯域幅」、「基地局」という言葉などが出てきます。前回ご紹介した、IT用語辞典e-Wordsに、「携帯電話・移動体データ通信で、一つの無線基地局がカバーする通信可能な範囲をセルという。」、「帯域幅とは、通信などに用いる周波数の範囲のこと。」、「基地局とは、携帯電話と直接交信する、携帯電話網の末端にあたる装置。」と説明があります。つまり、これらの個々の単語の意味をインターネットで調べることは可能です。しかし、これだけではそれぞれの単語の関係、通信の世界の全体像はよくわかりません。各単語が「通信のお部屋」の「どこに住んでいるのか」がつかみにくいのです。連続ドラマを途中の回から見始めたら、登場人物はわかってきたものの、人物相関図がよくわからなくてストーリーがいまいち理解できない。そんなもどかしさです。

なぜ本屋に行くのか?

では、なぜ書店に行くことをオススメするかというと、全体像が見られるからです。本屋にある分野別のコーナーは、その分野の全体像をあらわしています。コーナー全体で大きな「お部屋」だと考えて下さい。そして、そこにある本の一冊一冊が小さな「お部屋」。各著者がつくった小さな世界である「お部屋」が並んでいるわけです。ですから、調べたい分野のコーナーに行くと、「ああ、こんな世界=お部屋なんだ」というのが、何となくわかってきます。買う本が決まっているならネットで購入する方が簡単で早いのですが、あえてインターネットでモノが買える時代に、全体像を見渡すために、是非書店へ足を運ぶことをお勧めします。

また、書店はできるだけ大きなところが良いでしょう。あまり小さいと各分野に割り当てられるスペースも小さいですし、売れ筋の雑誌や話題の書籍のコーナーが大半を占めることもままあります。個人的には浜松町駅のJRからモノレールの駅に向かうところにある本屋さんが気に入っています。複数階にまたがっておらず、フロア構成の表示もわかりやすいからです。

さて、書店でお目当ての分野のコーナーに来たら、まずそこにある本のタイトルにざっと目を通して下さい。馴染みのない分野のコーナーでも一通りタイトルを見ているうちに親しみがわいてきますし、書名によく使われる単語がその分野の主な話題やトレンドを教えてくれます。その「お部屋」の住人もだんだんわかってきます。

余談ですが、子供のころわが家には文学全集や歴史全集がありました。さすがに中身を読もうという考えは全く浮かばなかったのですが(何回か読もうとして活字の多さに挫折したのかも)、毎日ただ何となく本のタイトルだけは眺めていた記憶があります。学年が進むにつれて、そのタイトルにあった名前や歴史上の出来事が授業に出てくると、旧友に会ったような気持になり、授業の内容がすんなりアタマに入っていったような記憶があります。

「目次を読む」

タイトルを見て全体像がわかってきたら、これと思う本を手に取ります。すでにいくつか知っている単語、例えば「ノード」、「セル」、「帯域幅」、「基地局」という言葉を手がかりに選んでもいいですし、何となく手に取ってみてもOKです。そして今度は「目次」を読みます。目次はその本の中身のダイジェスト版なので、そこを見ると、自分が欲しい内容なのかどうかがわかります。タイトルでピンと来なくても、目次に知りたい内容が入っていれば、読むべき本だということです。皆目見当がつかない時でも何冊か目次を見ていくと、目指す本がだんだんとわかってきます。

「目次を読む」ということは大学時代に先輩に教わりました。実をいうと当初大学では、英語ではなく歴史を専攻していました。大真面目に歴史の勉強をするつもりだった(「歴女」の先駆け?)ので、サークルも「歴史研究会」に入り、毎週「例会」と称する勉強会に出席。例会では週ごとに担当者が決まっていて、一冊の本を前の週に指定して勉強し、部員の前で発表します。自分が発表するとなると本も自分で選はなければなりません。初めて発表することになったときは、とりあえず図書館へ行ってはみたものの、本をどう絞り込んだらいいのかわからず途方にくれました。さらには学校の帰りに大型書店に行き、本のタイトルを眺めてみたものの、なかなか選ぶことができません。先輩に相談すると「目次を見ているか?」と思いがけない言葉。

その先輩は、「タイトルを読んだら、その本の8割は読んだのと同じだ」とさえ言いきっていました。これはいささか極論だとは思うのですが、(「タイトルを見たら、半分は読んだのと同じだ」とも言っていたような…)それ以来、本を選ぶのに困ったら、迷わず目次を見ることにしています。

新しい分野の本を探しに行く時は、書店からは持ち帰るのは3冊までと決めています。本を選んでいるときは、かなりやる気になっているので欲張る気持ちもありますが、3冊を超えると読むのかどうかがまず怪しくなります。本は物理的に重いこともあって、買いすぎ防止のためにも書店に行くことは、やはりオススメです。

しかし、実際にはすべてのページを読むわけではありません。あまり関係なさそうな箇所は飛ばして読み進めますし、時には読み始めてみたものの、早々にあきらめる場合もあります。「目次読んで選べと言っておきながら、その程度ですか?」と、ここでもツッコまれそうですが、もともと知らない分野、はずれがあっても仕方ないかなと、あまり気にしないことにしています。むしろ、「いらないものがわかった」という風にプラス面でとらえます。その分野はまだまだ知らないことがたくさんあるんだ、という「現状認識」ができたと考えると、書店にまで足を運ぶことも、あながち無駄ではないと思います。

今回は、「お部屋づくり」の大枠の説明をしました。次回は、ここに続く細かい部分の話に進みます。


神山真紀子(かみやま まきこ)

会議通訳者。得意分野は通信、ネットワーク系。最近増えてきたのがIR。他に製薬、生保、金融、IT、ファッション関係も多数。通訳業の前は、百貨店正社員として販売や売場ディスプレイ、特許事務所に転職し特許事務の後に特許翻訳へ。高校時代は英文科に進学希望するクラスメイトが異星人に見えるほど英語に興味がなかったが、大学の教養科目の英語で面白さを知り、専攻を西洋史から英米文学に変更。趣味はメジャーリーグと女子フィギュア観戦。